団野 薫
 団野 薫
  
               Ⅲ 
 
                 <間合> と タイミング/timing 
 
 
          
                  前稿 《 <間>と対人関係性 》 においては、
 
         <間>の概念を 空間的な構成素、〈距離〉として捉え、 その対人
 
         関係性との関わりを巡る考察・検討を、専ら、この角度からの
 
         アプローチに絞りつつ試みて参りました。
 
           けれども、
 
          <間>の概念には、今一つの構成素、時間的要件を看過しては
 
          ならないでしょう。
 
           本稿では、 <間>の時間的構成素を、特に、タイミング/timing
 
                と絡めつつ、考察・検討を進めて行く所存です。 
 
           そこで、手始めに、タイミングの概念の導入部として、〈距離〉だけ
 
         では、<間>の概念を明確化し得なかった語句/用語、‹間合›を
 
         取り挙げることに致しましょう。
 
           言うまでもなく、此処での対人関係性の当事者は、飽くまでも、
 
          2人。ですから、ダイアド(dyad)的関係を指しています。
 
                           ご了承下さるように。   
 
 
 
 
                  Ⅰ  ‹間合›と関連語
 
 
            ‹間合›は、対人関係性の当事者2人の間(あいだ)の間(ま)
 
          に関する事象と想定されます。
 
         
           この‹間合›を、広辞苑*に拠りつつ、もう少し詳しく調べますと、
 
                              * SHARP電子辞書(PW-AC920)
                                 所収
 
           ま-あい
                  【間合】
           ➀何かをするのに適当な距離や時機*。 あいだ。 ころあい
               「__をはかる」
                             * イタリックは引用者注、以下同様。
 
           ②舞踏、音曲などで調子や拍子がかわるときのわずかな休止の
             時間。 
                     ③剣道などで、相手との距離。
 
          
            ‹間合›の構成素は、空間的な距離。
 
           それと同時に、 時間的な構成素、時機、ころあい〔頃合い〕、そして
 
           休止の時間が深く関わっていることに気付かされます。
 
            ‹間合›には、多様な時間的様相が認められます。 そこで、
 
           間合の関連語として幾つかの語句/用語を挙げてみましょう。
 
           上掲の語釈のなかから、イタリック部分を検索しますと、先ず、
 
           時機は:
 
           じ-き
                【時機】
           適当な機会。 ちょうどよい時。 ころあい。 おり。 
             しおどき。 「__をうかがう」 「__到来」
 
           ころ-あい
                      【頃合】
           ➀程度。 そのぐらい。
           ②適当な程度。 てごろ。 「__の大きさ」
           ③適当な時機。 好機。 「__を見はからって」
 
           きゅう-し
            【休止】
           運動・進行・活動などが、一時とまること。 また、一時とめる
           こと。 「小__」 「運転を__する」
 
           更に、         
           おり
           【折】
           ➀ 〔割愛〕
           ②  同上
           ③季節。 時季。
           ④機会。 その際。 場合。 「___を見て」
 
           
           き-かい
                      【機会】
           何かをするのに好都合な時機。 おり。 しおどき。 チャンス。
             「絶好の__をのがす」
       
           しお-どき
           【潮時】
           ➀潮水のさしひきする時刻
           ②ある事をするための、ちょうどよい時期。 好機。 時機。
               「__を見て辞去する」
 
           こう-き
           【好機】
           よい機会。 チャンス。 「千歳一遇の__」 
 
           き
           【機】
           ➀ 〔割愛〕
           ②物事のおこるきっかけ。 はずみ。 しおどき。
              「__を逸せず」 「__が熟す」 「__に乗ずる」
              「__をうかがう」
           ③   〔割愛〕
           ④   同上
 
           更にもう一つの関連語句:
 
           じ-ぎ
           【時宜】
           ➀時の丁度よいこと。 また、 その判断。 程よいころあい。
               「__にかなう」 「__を得る」
 
 
           以上に列挙しました語釈(の抜粋)の流れを瞥見しますと、
 
         ‹間合›は、間(ま)が、空間的概念の≺距離≻よりも時間的要素へ
 
         移調、移行。 抜粋語釈は、時機に端を発して、ころあい【頃合】、
 
         おり【折】、機会、潮時、好機、機、時宜とその連なりに間の時間的
 
         概念的関連性が認められてもよいのではないでしょうか。
 
 
          更に、此処で、
 
         ‹間合›に関連する語句の注目すべき特色を挙げてみましょう。
 
         その一つとして、特に、
 
          時機を中心に関連語句の語釈から修飾語を掬い上げますと:
 
                ’適当な’(機会);
                 ’丁度よい’(時);
                ’よい’(機会);
                 ’適当な’(程度、時機、好機);
                ’ちょうどよい’(時機);
                ’好都合な’(時機)
 
         
         適当な、そして、丁度よい/ちょうどよいは、
 
         間合の特色を修飾、表現する -- 時機を始め他の関連語の
 
         語釈を通じても -- 必要要件として解釈されてもよいでしょう。
 
 
            今一つの特色は、 語釈の用例に見出されます。
 
 
              「〔時機〕をうかがう」
              「〔頃合い〕を見はからって」
              「〔折り〕をみて」
              「〔潮時〕を見て辞去する」
              「絶好の〔機会〕をのがす」
              「〔時宜〕にかなう」
              「〔機〕が熟す」
              「〔機〕に乗ずる」
 
 
          此処での文脈関係では、各成句には、動詞的要素が存在します。
 
          例えば、「間合をはかる」--間合の語釈➀の用例 ーーは、それに
 
         連なる動詞群が上掲の用例に覗えます。
 
 
          'はかる'を調べますと、
 
                   はかる
          【計る・測る・量る・図る・謀る・諮る】
          ❶  〔割愛〕
          ❷《図・計・測・量》物事を押し考える。
                      〔用例割愛、以下同様〕
             ➀考える。 分別する。 考慮する。
             ②物事の内容・程度を推しはかる。
             ③予測する。
+          ❸《諮・計》 よいわるいなど見当をつける。    
             ➀相談する。
             ②機会をうかがう。 見はからう。
          ❹《謀・計・図》企てる。 もくろむ。 工夫する。
           ❺  〔割愛〕
 
 
         「間合をはかる」の"はかる"は、《計・測・量・図》の’はかる’。
 
         換言しますと、推測、推考、推察などの動詞、つまり認知行動を
 
         含意するということです。
 
 
 
               
                 Ⅱ  タイミング/timing
 
 
 
           前節における‹間合›とその関連語句・成句を巡る広辞苑の諸解釈
 
           及び(筆者の)恣意的解釈は、一点に集中、集約、総括されます。
 
            即ち、タイミング/timing。
 
 
           タイミングは、 広辞苑に拠りますと、
 
                タイミング
          【timing】
          適当な時を見計らうこと。 時宜を得ること。 
                    また、ちょうどよいころあい。
 
 
         因みに、ジーニアス英和辞典*を調べますと、
                          * SHARP電子辞書所収
 
          timing
                タイミング。 好機の選択; 時間調整;(演技・打撃・
           リズムの)間のとり方。 〔以下割愛〕
 
 
          更に、OXHORD英英辞典へ進みますと、
 
          timing
                   1. the act of choosing when sth happens ;
                    a particular point or period of time when sth  happens
                    or is planned
                                * The timing of the decision was a complete
                                   surprise.
                    2. the skill of doing sth at exactly the right time
                                * an actor with a great sense of comic timing
                                * your timing is perfect.  I was just about to
                                   call you.
                     3. the repeated rhythm of sth: the skill of producing this
                                * She played the piano confidently, but her
                                   timing was not good.
 
 
               〔引用者和訳〕
 
               タイミング
           1.何かが起こった時の選択する行為; 何かが起こった、
             或いは、図られた時の特定のポイント、また、時点。
                 *決定のタイミングは、完全に驚きだった。
           2.丁度よい時に、何かをする技能〔スキル〕
                 *喜劇〔を演じる場合〕のタイミングについて凄い
                   センスを持っている役者
                 *貴女のタイミングは完璧よ。私は丁度貴女に
                   会いに行くところだったのよ。
            3. 何かの反復されるリズム; それを産み出す技能
                        *彼女は自信をもってピアノを弾いたが、彼女の
                    タイミングはそれほどよくなかった。
 
            
          上掲のtimingの語釈(/翻訳)は、<間>よりも‹間合›と解釈されて
 
         良いと想われます。 ‹間合›は、丁度良い/都合のよい空間・時間、
 
         つまり、適度な距離(=<間>)と 時機(=タイミング)を含意します
 
         から。 
 
          更に、‹間合›の’合い’は、timing/タイミングの技能/skillを指す
 
         と見てよいでしょう。
  
         重言しますと、
 
                 ‹間合›は、 <間>とタイミング/timing。
 
         そして、タイミング/timingには、今一つの要件が加わります。
 
         時機を図る、覗う、見定める‥など 選択や決定という行動の技能
 
         であり、 いうまでもなく、これは、‹間合›とも共有されます。
 
         ‹間合›とタイミング/timingは、時機を実現、実行するための
 
         技能を随伴する時空的過程と想定されます。
 
         
             此処で、‹間合›とタイミングの関連性についてお浚いし、確認して
 
         置きましょう。
          
          ‹間合›には、2種の構成素、即ち、距離と時機が在り、この両者の
 
         組み合わせが‹間合›。 <間>=距離は、どのようにそれを置くか/
 
         取るか、その構成過程がポイント、そこに焦点が絞られます。
 
         
          時機は、<間>=距離の構成過程に介入、介在する過程的技能、
 
         そこに、タイミングが出現します。 と言うことは、タイミングもまた、
 
         <間>=距離に介入、介在すること、 「適当な時を見はからうこと」、
 
         或いは、「時宜をうること」の技能、そして過程を意味すると見てよい
 
         でしょう。 
 
                  ですから、
 
          タイミングは、時機とほとんど等価的。 或る意味で、‹間合›の第3の
 
          の構成素とも想定されます。
 
            更に、<間>には、距離が主構成素として含蓄されますが、
 
          ‹間合›は、そのような空間的よりも時間的要素に傾斜する傾向があり、
 
          それは、即ち、時機をさし、タイミングへの連動、関連性が示唆されて
 
          よいでしょう。 
 
              と言うことで、これから、
 
           タイミングについて今少しの深耕を試みることに致しましょう。        
 
          タイミングは、時の流れに介入します。
 
                  換言しますと、
 
          テンポが注視、重視されます。 広辞苑に拠りますと、
 
                    テンポ
           【tempo】
             (時間の意)
           ➀楽曲が演奏される速度。
           ➁速さ。 速度。 「試合の__が早い」
 
 
          テンポは、音楽用語として定着しているようですが、ここでは、日常
 
          生活場面へ立ち還ってすこし考察・検討しますと、
 
           例えば、対話、会話におけるテンポ、つまり、話しを進める際の
 
          ‹間>の置き方、‹間合›の取り方、引いては、タイミングの取り方を、
 
          どんなテンポで行うか、行動を発動する 〔打って出る〕時機の遅速が
 
          問われます。 
 
          テンポのずれは、タイミングのずれ。 タイミングを逃します。
 
          更に、 ‹間合›におけるタイミングには、
 
                                       ポーズとの関わりが覗えます。
 
                              広辞苑を調べますと:
          
                     ポーズ
           【pause】
           休止。中止。間。 「__をいれる」
 
                             ジーニアス英和辞典では:
           pause
                   【原義:休止、停止】
           ❶〈人が〉休止する。 〔・・・するために/・・・するために〕ちょっと
           止まる。《進行中の動作を一時的に中止すること》
                 *pause for 〔to have〕a cup of tea
                        お茶を飲むため一休みする。
          ❷〔・・・について〕ためらう、思案する。
                   〔以下割愛〕
 
 
          ポーズを取ることは、‹間合›的文脈関係で見れば、動作/行動と動作/
 
         行動の間(あいだ)に小休止、一時的中止を試みること、その時機を
 
         見図ることがタイミングと想定されます。
 
         「間髪をいれず」は、行動と行動の間(あいだ)に、小さなポーズ/
 
         小休止すら入れないこと。即断・即決、咄嗟の動きを意味すると云える
 
         でしょう。 ですから、ポーズを取るということは、時機を図る、タイミング
 
         を見るということの1つ方策とになりと考えられます。 
 
 
         此処で、今一度、タイミングを整理、再把握を試みましょう。
 
         タイミングには、2っの過程が特色づけられます。
 
           * 時機/時宜の推量・推察;
                  「適当な時を見はからい」(広辞苑)
           ⋆ 実行性・実践性の見当と検討
            
 
          じっ-こう
          【実行】
          ➀実際に行うこと。 「公約__する」
          ➁  〔割愛〕
                
           じっ-せん
                    【実践】
          ➀実際に履行すること。 一般に人間が何かを行動に
                  よって実行すること。 「考えを__する」
          ➁  〔割愛〕
                   
      
          タイミングは、なによりも、’適当な時’ を推し測/量り、実際の行動
 
          を起こす実践の時機、機会を見定め、思案し、且つ、選択・決定
 
          する過程と想われます。
 
 
 
 
                    Ⅲ タイミングと<間>
 
 
          
         タイミング、或いは、「適当な時機を見はからうこと」、「時宜を得ること」
 
         (広辞苑)は、先ずは、適当なテンポ/速度を得ること、見極めること。
 
         つまり、時間的行動の速攻ー遅延、 〈速ー遅〉が注視されます。
 
           例えば、
 
          対話、会話における<間>の、タイミングの取り方は、
 
         〈速過ぎもせず、遅過ぎもせず〉/〈早過ぎもせず、後過ぎもせず〉
 
         と言うことと解釈されます。
 
         ’速過ぎ/早過ぎること’は、話し相手に対して、(また、自身にも)
 
         時には、過度の緊張感を与え、強め、状況は、どの種類・タイプ、
 
         どのレヴェルの話し合いであろうとも、硬直し易くなり、更には、
 
          一層の困惑、混乱を招致することになるでしょう。
 
           逆に、
 
          ’遅過ぎ後過ぎ’は、間(ま)延びを起こし、間(ま)怠くなります。
     
          緊張感は薄れ、リラックスし、緩和し、話しのテンポは崩れること
 
          でしょう。 話い合いのキッカケは喪失され、やはり、破局へと
 
          導かれます。
 
          テンポのよい対話、会話には、適度な<間>、或いは、時機、時宜、
 
          つまり、適度なタイミングを得る、取ることから産まれます。
 
          更に、付け加えますと、
 
          その失敗と成功は、継続の行動状況から判断されます。
 
          タイミング、つまり、時機/時宜を逸したことは、<間>を置くこと
 
          を誤ったこと。 ぐずぐずしていて、情報不足で状況判断などの
 
          ために、タイミングの選択、決定が適わなかった場合、
 
            反対に、
   
           好機を掴むことに成功した場合は、どのような困難に遭遇したと
 
           しても、なんとか克服し、行動を発する機会、つまり、タイミングを
 
           獲得した時。 会話は、心地良く弾むことでしょう。
 
            ところで、
 
                 タイミングの取り方には、もう一つの要件、
 
          〈遠過ぎず、近過ぎず〉があります。〈遠ー近〉の尺度です。 
 
          間(ま)延びせず、間(ま)遠くなく、 間近でなく...
 
   
          ま-のび
                   【間延び】
          ➀普通より間(ま)の長いこと。 
                    「__した拍子」
          ➁どことなくしまりのないこと。
 
          ま-どおい
                    【間遠い】
            場所または時間が遠く隔たっている。
 
          ま-ぢかい
               【間近い】
          距離・時間などの間隔が近くなっている。 
                もうすぐにせまっている。
           
           
             タイミングは、そのはかり方、取り方が、’遠’にも’近’にもどちらにも
 
          偏らない--だらしなく、遠く隔たらない、間隔を狭めない、近づか     
 
          ない時空間の想定・構成であること、その動き、過程が、最適な
 
         <間>を実現、実践することになるでしょう。
 
 
          もう少し続けましょう。
 
           <間>の語釈➄には: 既に広辞苑を調べましたように、
 
 
           ➄芝居で、余韻を残すために台詞(せりふ)と台詞の間に
           置く無言の時間    
                             と記載されています。
 
 
          この場合の<間>の語釈、’無言の時間’は、‹間合›と解釈されて
 
          よいでしょう。そして、この<間>/‹間合›の取り方を成立させる
 
          動きが、タイミング。
 
           台詞と次の台詞の間(あいだ)に入り、両者を繋ぐタイミングは、
 
          ’絶妙’であればあるほど、<間>は、’無言の時間’は生き、そして、
 
          台詞に、芝居に、新たな生命が吹き込まれるでしょう。
 
           ’絶妙な’タイミングとは、タイミングの最適時。 それは、’丁度良い
 
          頃合い、’ ’ほどよい時宜’をはかる過程を意味します。
 
 
           まだ、’間に合う’ようですので、もう一言:
 
          ‹間合›には、「間に合う」と言う語句も隠れているようです。
 
          
           まにあう
           【間に合う】
           ➀  〔割愛〕
           ➁定めの時刻・期限に遅れない。 「終電車に__・う」
 
 
         この場合の<間>は、時機、好機、タイミングの問題です。
 
         ぐずぐずしていれば、機会・チャンスを逃し、且つ、次の行動が
 
         迫ってきます。 ’機を見るに敏’に行動することです。ポーズを、
 
         小休止を置かずに。
 
         そうすれば、「間に合う」でしょう。 ‹間合›をはかることに成功
 
          したと言えます。
 
           「間がある」はどうでしょう。
 
          まだ、間があるということならば、行動と行動の間(あいだ)に余裕
 
          があること。 余裕があれば、‹間合›をはかる、つまり、丁度
 
          良い行動状況を選択、決定することが可能となります。タイミング
 
          の絶好のチャンスを逃したりしないでしょう。
 
            更に、
 
           「間に合う」から「間を合わせる」にスライドしますと:
 
 
              まをあわせる
              【間を合わせる】
              ➀拍子を合わせる。
              ➁ 〔割愛〕
 
 
         「間を合わせる」は、タイミングが要。 それは、拍子を合わせる
 
        タイミング。 拍子は、当事者の産出するテンポ、ポーズに深く関わり
 
        ます。 例えば、間延び。 もし拍子と拍子の間(あいだ)に適度の
 
        <間>と適時のタイミングがあれば、間延びはしないでしょう。
 
         また、相手の奏する拍子に合わせる時、この場合、相手の動き
 
        (拍子)との兼合い、バランスを見計う結果が、’丁度よいタイミング、’
 
        つまり、好機を得るか逸するを決定し、前者なれば、「間を合わせる」
 
        ことが出来たのであり、後者なれば、’合わせ’られなかったと言う
 
        ことに終止するでしょう。
 
 
 
 
                Ⅳ   ‹間合›とタイミング
                      
 
 
          前節では、<間>とタイミングの関連性を巡って、両者の置き方、
 
         取り方、つまり、構成過程について、更に、‹間合›も加えて、若干の
 
         考察・検討を重ねて参りました。
 
             本節では、更に、続けて、
 
         ‹間合›とタイミングの取り方、構成過程についての明確化を、
 
         今までを反芻しつつ、また、今までよりも角度を変え、視野を広げ
 
         ながら、試みることに致します。
 
 
 
          ‹間合› そして 間隔・間隙
 
          <間>を、今一度、反芻してみましょう。
 
          間(ま)の特色の1つとして、間隔が挙げられます。
  
                            広辞苑に依りますと、
                                 (以下同様です)
          かん-かく 
          【間隔】
          ➀物と物との距離。へだたり。
               「充分に__をとる」 「__を詰める」
          ➁事と事のあいだの時間。 「運転__」
 
          
          間隔は、二者、物また事、の間(あいだ)の時空間的隔たり。
 
          行動と継続する行動との間(あいだ)の動き。 この場合の間(
 
          あいだ)は、間隙とも解釈されてよいでしょう。
 
 
           かん-げき
           【間隙】
           ➀ひま。 すきま。 「__をつく」
           ➁へだたり。
              〔以下割愛〕
 
           イタリック部分を検索しますと、
 
           す-きま
           【隙間・透き間】
           ➀物と物との間の少しあいている所。 すき。
           ➁あいている時間。 ひま。 てすき。 いとま。
           ➂乗ずべき機会。 油断。てぬかり。
 
       
         更に、イタリック部分を、今一度検索しますと、
 
           き-かい
           【機会】
           何かをするのに好都合な時機。 おり。 しおどき。 チャンス。
              「絶好の__をのがす」
 
 
          ところで、 「間合をはかる」とは --
 
         それは、行動と行動に間隔をどのように取るか、行動と行動の間
 
        (あいだ)の間隙をどう対処すれば、と言う課題、過程に落ち着きます。
 
         其処には、前節で触れましたように、タイミングが介入します。
 
         ‹間合›の主要構成素は、適当な距離と適当な時機/時宜。
   
         タイミングは、時宜に関わる間隔・間隙に生じる技能・過程。
 
 
            対人関係性的文脈関係で捉え直しますと、
 
          「間合をはかる」は、2人の間の距離、間隔・間隙見計らい、
 
          次の行動をどのように打って出るか、実行・実践に移すに適した
 
          機会、時機/時宜の過程と想定され、且つ、その技能が要求されます。
 
 
           間隔・間隙とのタイミングは、
 
            既述のように、前者をどのようなタイミングで対処されるかが
 
          注目されます。 
 
                   例えば、 ’タイミングが悪い、を逸した’という場合は、次の動き、
 
          行動に出る間隔がずれている時など。 或いは、行動に出る間隙が
 
          つかめない、見当が付かない時。
 
           ’良いタイミング’は、次の拍子を打つ時機が、ぴったり、最適。
 
          対話、会話の流れにうまく乗って、楽しい一時を過ごすことが出来る
 
          でしょう。 
 
           間隔は、短くも長くも。
 
           間隙は、間(ま)に生じる隙間。 狭過ぎることも。
 
           どちらにも、丁度よい時機、時宜をもたらす過程が、‹間合›/タイミング。
 
 
           では、どのようなタイミングで?
 
                   ’良いタイミング’ ’好機/good timinng ’とは?
 
 
             時機と好機
 
           タイミングは、時機・好機を掴むことが、命(いのち)。
 
           つかむ
          【掴む】
          ➀ 〔割愛〕
          ➁手に入れる。わが物とする。
          ➂相手を理解し、自分に惹きつけた後、離れていかないように
           する。 掌握。
          ➃物事の要点をとらえる。 理解する。 「大意を__・む」
 
 
           時機・好機を掴むには、なによりも、待つこと。 待機すること。
 
 
          まつ
          【待つ】
          ➀来るはずの人や物事を迎えようとして時をすごす。
            「春を_・つ」 「できるまで_・つ」 「説明を_・たずして明かだ」
            「相手の出方を_・つ」
 
          たい-き
          【待機】
                準備をととのえて機会の来るのを待つこと。 「自宅__」
 
 
          待つこと、待機することは、まさに、その時、その機会の到来を準備、
  
          万端備えつつ、迎えること、対応すること。
 
 
                雌伏十年
                鳴かず飛ばず
                千歳一隅(の機会)
 
 
         上掲の成句は、全て、行動を打って出る、実行、実践する機会、
 
         時機・好機を窺い、待っている状況を含蓄しています。
 
 
        タイミングの主要件、待機・好機の特色は、繰り返しますと、
 
   
              ⋆ その時が来るまで、待つ、動かない;
              ⋆ 時の流れ/経過・過程を見る、窺うこと;
              ⋆ 突然、その時が開示され;
              ⋆ その瞬間、間(ま)が、間隔/間隙が出現します;
 
 
           或る年のことです。
 
         TVでサッカーのゲームを観戦中のこと。
 
         選手が、ボールをゴール・ポストへ蹴り込む寸前、彼の前に、ゴール
 
         へのルートが開かれました。 行動(蹴り)と行動(蹴り)の間に、
 
         間隙が現れたのです。 その瞬間を彼は見逃しませんでした。
      
         彼は、よく時機を掴み、絶妙のタイミングで彼のボールはネットを
 
         揺らせたでした。
 
 
           このような好機の獲得は、当事者の経験と勘、そして、多分、
 
         ‹気-感覚›が想定されます。 
 
          時機・好機を掴む、 一般的な基盤としては、2種類、内的と外的、
 
         が挙げられてよいでしょう。
 
          内的要因としては、当事者個人の主観的過程。 自身の持つ主観的
 
         尺度。 私人的・個人的なレヴェルから社会/文化的、更には、
 
         普遍的なものまで重層的に。
 
          外因としては、当事者個人を取り巻く客観的環境。
 
         狭義には、状況、場面、場合。 そして、状況次第という要素も
 
         含蓄されるでしょう。 その都度修正されうる柔軟性も。
 
 
          此処で再び反芻しますと:
 
          ‹間合›の時機・時宜は、動きと動きの間(あいだ)に、間隔を、
 
          間隙を見る、計る、或いは、入れること。 ですから、
 
           タイミングは、適当な機会を窺うこと。
 
          それは、その過程は、既に示唆しましたように、時間の流れ。
 
          意識の時間的流れ。意識時間の経緯の中の出来事。
  
          そこで、時間を中断することではないのです。 ポーズを置くことは、
 
          小休止を入れること。
 
          時と時の間(あいだ)にポーズを入れることで、間隔・間隙が出現し、
 
          次の動きを発動する余裕が産出されます。 この余裕こそが、
 
          当事者に時機・好機を窺い、はかる(計る/図る)契機を与えると
 
           考えられてよいでしょう。
 
            また、
 
         ‹間合›やタイミングを窺い、計ることは、中断することではありません。
 
           繰り返しになりますが、
 
         ‹間合›をはかり、時機/タイミングを窺う経緯、過程は、力動的。
 
         流れる意識的時間を計る‹間合›。 ですから、中断しますと、
 
         間(ま)も、‹間合›、タイミングも死んでしまうでしょう。 それらは、
 
         意識の時間的流れのなかでこそ、生の輝きを放つのですから。
 
 
         では、好機を掴むには、どのようにすれば、より具体的やり方の
 
        1つとして、スパンと言う尺度を考えてみましょう。
 
                  スパン
         【span】
         ➀ 〔割愛〕
         ➁ 同上
         ➂時間的な幅。 「長い__で考える」
 
 
                            span  は、じーにあす英和大辞典に拠りますと:
 
 
          span
          ➀(ある一定の短い)期間。 (時間の)長さ; (力の及ぶ)
               範囲。
          ➁全長。 さしわたり; 全期間(範囲)
 
 
          スパン/時間的な幅・範囲と言う角度から‹間合›/タイミングを眺め
 
         ますと、‹間合›にも、タイミングにも、スパン/時間的幅・範囲は
 
          長短、速遅、遠近 様々。
 
             短いものは、一拍、一拍子。
 
         殆ど瞬時。どんぴしゃ。 間延びをしない。 テンポも間怠く無く...
 
         時間的幅・範囲は、狭い。
 
          長い場合は、 例えば、雌伏十年。 鳴かず飛ばすの期間。
 
         非常に長い幅・期間が存在します。 そしてそれは、勿論、
 
         次に打って出る機会、好機を窺っている長さであることは言うまでも
 
         ないこと。
 
          対人関係性状況の2人の対話、会話を、スパン/範囲で捉えますと、
 
         発言の遣り取り〔の間(あいだ)の〕テンポを遅くしたり、速くしたり、
 
         或いは、二人の発言の間に置くポーズを長くしたり、短くしたり...
 
         することに依って、遣り取りに適度なスパン/範囲が構成され、
 
         提供されれば、良い時機/時宜、つまり、好機が産まれるということ
 
         です。
 
          
              外(はず)す
 
         今までは、専ら、時機/時宜、好機を関心の対象にして参りましたが、
 
         これからは、すこし外れて、つまり、角度を変えて、’タイミングを外す’
 
         ことから、時機/時宜、好機についての考察、検討を進めてみること
 
         に致しましょう。
 
 
         対人関係性の当事者2人にとって、その維持、存続、発展のためには
 
         相手と ’息を合わせること、’ ’呼吸を合わせること、’ 更に、
 
         ’調子を合わせること’の3要件が挙げられてよいでしょう。
 
         
          いき
          【息】
          ➀口や鼻から呼吸する空気。
          ➁  〔割愛〕
          ➂(二人以上の者がいっしょに一つの事を行う場合の)呼吸。
               調子。
 
          こ-きゅう
                    【呼吸】
          ➀respiration
               〔以下割愛〕
          ➁物事を行う微妙なこつ。 調子。 要領。
          ➂動作をともにする人と人との間の調子。   
                 「__をそろえる}
 
    
          ちょう-し
          【調子】
          ➀  〔割愛〕
          ➁  同上
          ➂物事の動きのほどあい。 ぐあい。
 
 
         ‹間合›とタイミングの時機/時宜、好機を窺うには、上掲の3つの要素、
 
         息、呼吸、調子のコンビネーション、
 
          そして、息が、呼吸が、調子が合うこと。 を合わせること。
 
         ハーモニーが必要です。
 
          
         ハーモニー
         【harmony】
         ➀和声(わせい)
         ➁調和。 諧調。


         かいちょう
         【諧調】
         よく調和のとれた調子。 整った調子。 「__の妙」
 
 
          ちょう-わ
          【調和】
          うまくつり合い、全体がととのっていること。
          いくつかのものが矛盾なく互いにほどよいこと。
 
              
         息が合うこと、呼吸が合うこと、調子を合わせることは、息、呼吸、
 
         調子のハーモニー、諧調/調和を奏でること。その時にこそ、
 
         適度な‹間合›、と絶妙なタイミングの出現が可能性が覗えます。
 
                  対人関係性の状況下で、
 
         当事者二人の間(あいだ)で、会話が弾み、’息が合い、’’意気投合’
 
         した場合、この種のハーモニーが生じます。 そのためには、適度な
 
         ‹間合›と時機、好機の演出が、産出と共に望まれます。
 
          そして、更に付け加えるならば、その際、二人の間に何らかの
 
         心理的紐帯が想定されます。 その最も基底に横たわるものは、
 
         二人の間(あいだ)で体験、感得される一体感。 
         
      
          逆に、
 
          息、呼吸、調子の三要素のハーモニーから外れることは、‹間合›を
 
          外し、タイミングを外します。 ‹間合›を失念し、時機/時宜、好機を
 
          逃すということです。
 
          タイミングが’ずれる’ということは、打って出るタイミングが上手く
 
          発揮されない、 どんぴしゃでなく、 絶好の機会を逸して、次の
 
          動きや、相手の動きが、そして、全体の、例えば、会話の流れと
 
          噛み合わない場合。
 
      
             かみ-あう
                         【噛み合う】
              ➀  〔割愛〕
              ➁歯車などがぴったり組み合わさる。
              ➂意見や考えのやりとりがうまく合う。
                   「議論が__・わない」
 
 
         タイミングが、’ずれる’場合は、動きが上手く噛み合うように、
 
         ’軌道修正’すること。 そして、丁度好い頃合いの演出、産出を。
 
            ですから、
 
         動き、行動、或いは、発言のタイミングがずれると言うことは、
          
          ‹間合›を取る技能/skillの上手、下手。 下手なのです。
 
          ”タイミングが悪い、悪かった、” は、
 
          タイミングをはかり(図り/計り)、窺うことがまずく、好機を見出せ
 
          なかったこと。 動きと動きの間(あいだ)の間隔を上手く調整する
 
          ことが出来ず、滑ってしまう、しまった場合。
 
          けれども、
     
          時によっては、外すこともあります -- 意図的に。
 
                      これは、謂わば、”高等戦術。”
 
         例えば、メロディ・旋律が奏でられる場合。
 
 
          せん-りつ
                   【旋律】
          一連の音の流れによって何らかの心情を表したもの。
             〔以下、割愛〕
 
 
         タイミングを’外す’ことは、この「何らかの心情」のより深い奥義を
 
         強調、浮彫りしつつ、所与の旋律・メロディに更なる風趣を与えようと
 
         する時の動き。 技能 -- 高等な技能。
 
         旋律・メロディは、このような演奏者の意図的な’タイミング外し’
 
        によって、より一層伸びやかに、自由に、独創の世界に飛翔すること
 
        でしょう。
 
         <間>を、‹間合›を外す場合も同じ:
 
         相手との適度な<間>、‹間合›を取りながら、そこへ打って出る
 
         時機・時宜、好機を見ず -- 正確には、見乍ら見ず --
 
         今一度の機会を窺う。 はかる(計る/図る)。
 
          息を、呼吸を、調子を合わせながら、‹間合›の一瞬の隙を見つけ、
 
         行動を起こす、実行、実践するタイミングが、好機。絶好のタイミング。
 
            一拍ずらす、 一寸ずらすが、粋。
 
           
         ずらす
         ➀すべらす。 動かす。特に、位置・時間などがいっしょに
           ならないように、形や内容を変えずに動かす。
                   「日程を1週間_・す」
         ➁  〔割愛〕
 
 
          ‹間合›の取り方を、大きくずらす、すべらす、動かすことが、
 
          無粋・不粋でないこともあります。 そうして、絶好のタイミング、好機を
 
          得るのでしたら。
 
          
              
           巌流島の決闘。
 
           宮本武蔵は、佐々木巌流〔通称、小次郎〕との決闘の約束の
 
           時間に遅れました。 
 
             ぴったり、定刻に立ち会うタイミングを
 
                  外した、ずらしたのでした。
 
           佐々木巌流は、多分、随分、苛立ち、勘を狂わせたこと
 
           でしょう。 すっかり、平常心を失ったところで、
 
           宮本武蔵は、登場。 まさに、絶妙のタイミング。
 
           小次郎は、剣を合わせる決闘だけでなく、
 
           武蔵の息、呼吸、調子のハーモニー外し、ずらし、つまり、
 
           ‹間合›の取り方に、まず、敗れてしまっていたようです。
 
 
           ‹間合›を、タイミングを’ずらす’は、時機/時宜、或いは、その技能を
 
           得ながらも、つまり、状況を掴まえながら、その好機を実現せず、
 
           他の機会を窺う、狙う際に、 一息、一呼吸、一拍ほど調子を
 
           ずらすこと。
 
          それを、敢えて -- つまり、意図的に、恣意的に行えるならば、
 
           それは、タイミングを操る、操縦する技能であり、自由に 熟(こな)す
 
           ことが出来れば、タイミングの達人、達人の芸域です。
         
            但し、
 
           ‹間合›、タイミングの取り方が、エゴイスティック/egoisticな場合。
 
           利己志向に駆られたタイミングは、相手のタイミングを狂わせ、
 
           それが目的であれば、対人関係性における息、呼吸、調子の
 
           ハーモニーは、破壊的になるでしょう。 換言しますと、当事者
 
           2人にとって、’win-win’にならず、 一方にのみ利することに。
 
 
          日常生活場面での対人関係性にある、
 
           2人の間(あいだ)に置かれる間(ま)は、ポーズ。小休止。
 
            此のポーズの使い方の奥深さが、好機、絶妙なタイミングを創造
 
           するのであり、それは、やはり、当事者両方に利する、利他・愛他主義/
 
           altruisme的なものであるべきでしょう。
 
 
                対人関係性の円滑な維持、発展に必要な要素は、
 
             ‹間合›とタイミング。
 
         それは、例えば、発言と発言の間(あいだ)、言葉の遣り取りの間に
 
          間隔、間隙が置かれること、それは、また、<間>をどのように
 
          使用、活用するかは、‹間合›とタイミングが要となることを意味します。
 
 
          <間>は、或いは、間隔、間隙は、
 
                              空地。 余白。 虚。 無。
 
            其処は、静止の世界、 休止であって、中断ではない世界。
 
            この世界に生を吹き込み、呼び覚ます行動が、‹間合›とタイミングを
 
            窺い、見はかる(図る、計る)過程。
 
 
            ‹間合›とタイミングをどう生かすか、それは当事者の意識過程に
 
             掛かっています。 次節で、考察・検討を試みましょう。
 
 
 
 
                 Ⅳ ‹間合›・タイミングの力動
 
                     
 
          ‹間合›・タイミングをはかる(図る/計る)過程、別言しますと、
 
          それらの産出、演出という力動を構成過程と想定しましょう。 
 
            では、
 
          どのように‹間合›・タイミングは構成されているのしょうか。
 
          この構成過程の明確化の試みが、本節の課題です。
 
           まず、日常生活世界へ立ち還って、構成過程に纏わる語句、
 
            成句を掬い上げることから着手しましょう。
 
               思いつくまま、ランダムに列挙しまずと;
 
                
               ⋆ 満を持す
                ⋆ 千載一遇
               ⋆ 十中八九
               ⋆ 静観の構え
               ⋆ 小手調べ
               ⋆ 短刀直入
               ⋆ 我田引水
               ⋆ 機が熟す
               ⋆ 頃合
   
 
 
           ⋆ ’満を持す’
 
 
            まんをじす
            【満を持す】
            ➀弓を十分に引いてそのまま構える。
            ➁準備を十分にして機会を待つ。
 
      
          ‹間合›・タイミングの時機/時宜は、行動に出る前に、十分な準備が
 
          必要。 余裕が生まれる程の。
 
          切羽詰まった、極限の状況では、‹間合›をはかり(図り/計り)、
 
          タイミングを窺う当事者の心理的余裕は喪失、消失するでしょう。
 
 
                                                      広辞苑に拠りますと、
                              (以下同様です)
           
           せっぱつまる
            【切羽詰まる】
           物事がさしせまる。 全く窮する。 
           最後のどたん場になる。
 
 
          切羽詰まらないように、
              
          周囲に十分な目配りが出来てこそ、タイミングの機会、時機、好機を
 
          掴むことが出来るというもの。 それは、前もっての十分な準備と
 
          余裕から結実します。
 
 
           めくばり
           【目配り】
           よく注意して、必要なところに落ちなく目を行きとどかせる
           こと。 「_がきく」 「細かく_する」
 
 
              
            ⋆ ’千載一遇’
 
 
           せんさいいちぐう
           【千載一遇】
           千年に一回しかあえないようなめったにないこと。
                       「__のチャンス」 
    
             
          日常生活世界での普通の対人関係性では、 極めて稀なこと。
 
          一生に一度の邂逅のような。
 
          憧れのパーソナリティー(歌手や俳優、アスリート)と偶然居合わせた
 
          などの場合に、握手を、或いはサインを、とお願いする時の‹間合›・
 
          タイミングは? どのように?
 
          通常の感覚では、はかる(図る/計る)の殆ど不可能なハプニング。
 
          多分、’出た所勝負’で、 ’一か八’で、或いは、’成り行き任’で、
 
          時機/時宜を選択、決定することになるでしょう。
 
 
           でたとこ-しょうぶ
           【出た所勝負】
           ばくちで、出た賽(さい)の目で勝負をきめるように、
           あらかじめ手段をめぐらさないで、その時の状態で
           事をきめること。成否を運にまかせてともかくやってみること。
 
 
           いちかばちか
           【一か八(ばち)か】
           (もとカルタ博打(ばくち)からでた語)運を天にまかせて
           冒険すること。 のるかそるか。
 
 
          どちらも、握手やサインをねだる‹間合›・タイミングをあれこれ思案、
 
          計って/図っている時ではありません。 「成否を運にまかせて」、
 
          「運を天にまかせて、」 先ずは、行動に打って出ることです。
 
          ’成り行きまかせ’にしますと、
 
 
          なり-ゆき
                    【成行き】
          ➀物事が移り変わってゆく様子や過程。 また、その結果。
                「__にまかせる」 「自然の__」
 
 
          ’運にまかせ、’ ’運を天にまかせ、’ ’成り行きにまかせ’ますと、
 
          成否は、どちらかと言えば、失敗の危険性が高くなります。
 
          そうなると、後込んで、萎縮して、’‹間合›・タイミングをはかる’状況は、
 
          ’お手上げ。’ もう、運を天にまかせて... 好機を掴むことです。
 
 
 
                ⋆ ’十中八九’
           
            じっ-ちゅう-はっく
            【十中八九】
           10のうち8か9の割合で。 おおかた。 ほとんど。
             大部分。  「生還は___のぞめない」
 
 
          ‹間合›・タイミングの構成確率は、上掲の場合よりもかなり高い。
 
           けれども、正鵠を射ることは、なかなか難しいようです。
 
 
          せい-こく
                    【正鵠】
          ➀弓の的(まと)の中央の黒ぼし。
          ➁ねらいどころ。 物事の急所。 要点。
                   「__を誤る」
 
 
          ‹間合›・タイミングの構成過程は、いつも正鵠を射ることが出来るのでは
 
          無く、むしろ、誤ってしまう場合が多い。 気を付けねばなりません。
 
          前節で触れましたように、時機を’外す’ことは、’ずらす’場合も含めて、
 
          屡々、生起するようです。
 
 
 
                  ⋆ 静観の構え
 
           せい-かん
                     【静観】
           ➀静かに観察すること。 自らは行動することなく、静かに成行き
             を見守ること。 「事態を__する}
           ➁  〔割愛〕
 
       
           かまえ
           【構え】
           ➀くみたて。 つくり。 また、構造物。
           ➁準備を整えること。 思慮・工夫を十分にめぐらすこと。
              「和戦両様__の構え」
           ➂こしらえごと。また、計略。
           ➃みがまえ。 身体のそなえ。 特に、武道の姿勢。
                                  「正眼の__」
           ➄  〔割愛〕
           ⑥  同上
 
 
              ‹間合›・タイミングにおける’静観’は、
 
          時機/時宜をはかる(図る/計る)ことはあっても、自身の側から
 
          打って出る行動(実行)は、差し控え、状況の行方、成行きを見据える
 
          こと、一方、’構え’は、時機を得る、打って出る時宜を得たその時の
 
          ために、色々、思案を巡らせ、準備しつつ、’満を持して’ 待機する
 
          姿勢を意味すると解釈し得るでしょう。
 
 
          逆の場合も: ’音無しの構え’
 
 
          おとなしのかまえ
          【音無しの構え】
          音を全く立てない姿勢・態度。 転じて、働きかけに対して
          何の反応も示さないこと。
 
 
         この構えの場合、こちら側が、‹間合›・タイミングの構成契機になる
 
         ような行動を見せても、見ると、相手側は、無反応、時には、無視で
 
         対応します。それでは、‹間合›も、タイミングも消滅の危機に瀕します。
 
         どうすれば、ようのでしょう。 一寸動きを、相手が行動を誘発する
 
         ような行動に出るのも、1つの手。
 
 
 
               ⋆  小手調べ
 
         
         ‹間合›・タイミングの時機/時宜を知るために、眼前の状況を、当事者の
 
         相手の様子を、探ります。 その1つの方策として、’小手調べ’。
 
   
             こて-しらべ
             【小手調べ】
             本式にとりかかる前に、てさきの調子をととのえること。
             ちょっとためしてみること。
               「ほんの__にやってみる」
 
 
          行動に出る前に、この‹間合›・タイミングでどうか、如何か、
 
          当事者が自身の動きを、ちょっと披露し、相手の反応、様子を
 
          窺い、見計らい、眼前の状況の判断の材料、根拠にすること。
 
          それは、亦、小手先を働かして、‹間合›・タイミングをはかることも
 
                  意味するということです。
 
     
           こてさき
           【小手先】
            手の先。 転じて、ちょっとした技能や才知。
               「___が利く」  「__の仕事」
 
 
          いずれにせよ、‹間合›・タイミングの発動(構成と実行)は、用心深く、
 
          慎重に、ということです。
 
 
 
               ⋆  ’短刀直入’
 
 
           たんとう-ちょくにゅう
           【短刀直入】
           ➀  〔割愛〕
           ➁余談・前置をぬきにして、直截に問題の要点に入ること。
                      「__に尋ねる」
 
 
 
          この場合は、’機が熟す’ことを待たない。
 
          言葉を切り出す‹間合›・タイミングの環境/状況造りもしない。
 
          余談、雑談などの話合いの手始めとしての’前奏曲’や’前哨戦’も無く、
 
          つまり、小手調べも試みずに、いきなり、本件、テーマへ切り込んで
 
          行くやり方。
 
          突如、出し抜けの発言なので、その結果、‹間合›・タイミングを外す
 
          ことになり兼ね無い。 相手は、’不意襲(うち)を食った’感じで、こちらの
 
          行動に合わせられず、狼狽ばかりが大きくなるばかり、 では、状況の
 
          混乱を招くばかり。 こちら側も、時機/時宜を外され、外してしまいます。
 
          ’短刀直入’に切り出すには、通常のタイミングよりタイミングが必要
 
          のようです。 ’電光石火’な...
 
 
        
             ⋆ ’我田引水’
 
 
          がでんいんすい
          【我田引水】
          (自分の田にだけ水を引く意) 自分の利益となるようにひきつけて
          言ったり、したりすること。
             「その理屈は__に過ぎる」
 
 
         自身の発言を、何とか、或いは、強引に、自身の望む方向へ持って
 
         行くために、‹間合›・タイミングを図り、計り、創り出そうとするやり方。
 
          このようなやり方は、得てして、相手の発言の機会を封じる傾向が
 
         強く、無理強い、ごり押しを結果し、究極的には、行動を発動する機会
 
         を失ってしまう可能性が高くなるばかり、と言えましょう。
 
 
 
                  ⋆  ’機が熟す’
 
          きがじゅくす
                【機が熟す】
                物事を始めるのに丁度よい時となる
 
          機は、
 
          き
          【機】
          ➀ 〔割愛〕
          ➁物事のおこるきっかけ。 弾み。しおどき。
              「__を逸せず」 「__が熟す」 「__に乗ずる」
              「__をうかがう」
          ➂   〔割愛〕
          ➃   同上
 
 
          ’機が熟す’は、待ち、待機の姿勢を含意すると見てよいでしょう。
 
          丁度よい機会が出現するまで待つということ、或いは、機が熟すように
 
           仕向ける、積極的な攻勢を。  静観、成り行き(まかせ)とは逆の
 
           構えでもあります。
 
 
           ’機が熟す’とは、少し趣を異としますが、
 
             ’雑談の効用’が挙げられます。
 
          本件、本題へ入る前に、暫くの間軽い会話、雑談を交わします。
 
          この経緯は、謂わば、’小手調べ’の時とも云えるでしょう。 つまり、
 
          ’機が熟す’時を、探りつつ、待っている時。
 
          そして、お互いに気が盛り上がり、息、呼吸の合った処で、本件へ。
 
           この過程こそ、‹間合›・タイミングを、本題に入る時機/時宜を
 
           はかっている時。 
 
          ’雑談の効用’。
 
          一見、取り止めのない無駄話が、本件、本題へ入る≴間合›・
 
          タイミング構成の環境/状況造りをしていると言うことです。 そして、
 
          その過程が終わった時、終止符が打たれた時が、’機が熟した’
 
          時と、想定されます。
 
 
 
                 ⋆  ’頃合’
 
 
         ’機が熟す’は、或る意味、’頃合い’を見はからいつつ、その時、
  
         つまり、適当な機会、時機、時宜、好機の訪れを待つ、よりもむしろ、
 
         得ると言うこととも考えられます。
 
          
          ころあい
          【頃合】
          ➀程度。そのぐらい。
          ➁適当な程度。 てごろ。
          ➂適当な時機。好機。 「__を見はからって」
 
         
          時機の語釈には、’適当な機会、’ ’ちょうどよい時、’ ’ころあい’が。
 
          時宜には、’程よいころあい’が記載されています。
 
          ’頃合’には、2つの要素が抽出されます: 適当 と 程よい。
 
 
          てきとう
          【適当】
          ➀ある状態や目的などに、ほどよくあてはまること。
                    「_した人物」 「_な広さ」
          ➁その場に合わせて要領よくやること。 いい加減。 
                    「_にあしらう」
 
           ほどよい
           【程好い】
           よい程度である。 ちょうど都合がよい。
                   「__・い湯かげん」 「_・く煮える」
 
           因みに、程度は:
 
         ていど
         【程度】
         ➀  〔割愛〕
         ➁ 適当と考えられる度合い。 ころあい。 ほど。
 
 
       
          対人関係性の状況下では、当事者2人の間(あいだ)、或いは、行動と
 
          行動の間(あいだ)、の間隔が近過ぎる、狭すぎると、間詰まり。
 
          時機・時宜を逸するでしょう。
 
          間隔が、遠すぎても、離れ過ぎても、やはり、タイミングを失います
 
          -- 勿論、既述しましたように、敢えて外すと言う’高等戦術’も
 
           ありますが。
 
          何はともあれ、 ’適当な機会、’が、’機が熟す’頃合い。
 
          それは、換言しますと、’程の好い、’ ’このぐらい/この程度。’
 
           其処では、大凡(おおよそ)の処、この辺、近辺と言う意味が隠蔽されて
 
           ているようです。 と言うことは、
 
           ’頃合’ -- 適当な機会、時機、時宜、好機は、必ずしも、
 
           どんぴしゃの、丁度ぴったりな場合許りではなく、凡そこの辺りと
 
           言う曖昧さも漂うということです。
    
           ’機が熟す’のは、つまり、タイミングをはかり、その実行可能性は、
 
           100%確実性を意味するのではないと想定されます。
 
 
 
 
          Ⅴ  状況の構築
                   -- 或いは、判断
 
 
          前節では、対人関係性の当事者2人の間(あいだ)において、
         
           行動、発言などを切り出す‹間合›・タイミングを窺い、はかり(図り・
 
          計り)ーー 換言しますと、構成*そして実行する過程の考察・検討
 
          を試みました。
 
                  *因みに、本節では、‹間合›・ダイミングを窺い
 
                (図る/計る)過程を簡略化し、’構成’として一括し、
 
                捉えることに致し ました。 ご了承下さるように。
 
 
           本節では、‹間合›・タイミングの構成、実行に必要な幾つかの
 
           要件を探って行くことに致しましょう。
 
 
 
            状況の判断
 
           ‹間›・タイミングは、時機の選択と決定の行為。
 
           それには、状況の判断が必要、望まれます。
 
           例えば、猫の写真撮影。 所謂、シャッター・チャンス、撮影の好い
 
           機会、時機を掴まねばなりません。 そのためには:
 
          ⅰ) 猫の生態観察。 成猫は、一日20時間以上寝ています。
 
             動くのは、テリトリー内のパトロールと食事の時だけ。
 
          ⅱ) 撮影者の意図、望み。
           
             歩いている猫を撮りたいのならば、戸外へ。 眠っている猫
 
             ならば、室内でシャッター・チャンスを狙います。どちらも、
 
             撮影者の主観の範囲。
 
 
           以上の2つの要件が合致した時、撮影の‹間合›・タイミングを
 
           攫む状況判断が可能になります。 
   
 
          上掲の例解を踏まえて、状況の判断を想定しますと、
 
                  ‹間合›・タイミングの構成・実行要件には、2種が挙げられます。
 
         外的な要因と内的な要因。
         
         外的なものは、環境的なもの。 ‹間合›・タイミングの構成当事者の
 
         立ち位置、物理的から社会的、文化的なものまで、当事者を取り囲む
 
         時空間。 
 
         内的な要因は、当事者の個人-内的過程。 つまり、主観的過程。
 
         知情意に関わる意識過程、知見、知識、感情、願望、意思、意図など。
 
         このような2種の要因を基に、総合的な状況判断が下された時、
 
         ‹間合›・タイミングの適度な選択と実行へ導かれることになるでしょう。
  
          状況の判断は、更に、状況の把握と観察と言う当事者の認知過程を
 
          必要とします。
                             広辞苑に拠りますと、   
                              (以下同様です)
 
            はあく
            【把握】
            ①にぎりしめること。 手中におさめること。
            ➁しっかりと理解すること。 「状況を__する」
 
 
           状況の把握は、気心が知れている相手の場合、無意識的。
 
           いちいち意識をせず、状況把握をせず、理解は相互承知の上で、
 
           ‹間合›・タイミングをはかっていると見えます。
 
           けれども、状況の把握、理解が難しい場合、ですから、‹間合›・
 
           タイミングの構成が困難となる場合、状況の観察の用が浮上します。
 
 
            かんさつ
            【観察】
            物事の真の姿を間違いなく理解しようとよく見る。
              「動物の生態を__する」 「__が鋭い__力」
 
 
           ここでの文脈関係の観察は、その対象として、当事者が相対する相手、
 
           そして、当事者2人が織り成す関係性の状況、その経緯、流れ、成行き
 
           などが注目されます。 その際の要請として、’物事の真の姿を間違え
 
           なく理解しょうと’するには、客観性。
 
           
           きゃっかん-せい
-           【客観性】
           (objectivity)客観的であること。
 
           きゃっ-かん
           【客観】
           (object)
                     ①主観の認識及び行動の対象となるもの。
           ➁主観の作用とは独立に存在すると考えられたもの。 客体。
 
          客観性には、冷静さが伴われます。
 
           れい-せい
           【冷静】
           感情に動かされることなく、落ち着いていて物事に動じないこと。
           「__な態度」 「__に判断する」 「沈着__」
 
 
           状況の判断に必要な要件、把握/理解と客観的観察には、’感情に
 
           動かされない’冷静さが要請されます。
 
           と同時に、対人関係性上の相手に対し、’感情に動かされない’主観的
 
           構え、即ち、「相手の立場に立つ、」 「相手の身になって考える」姿勢も
 
           要請されると想定されねばならないでしょう。
 
 
                 此処で、ちょっと立ち止まって、状況の判断を巡って、
 
           今一度、別の角度から、つまり、外と内の2極型ではなく、3極型での
 
           考察を試みてみることに致しましょう。
 
            例えば、 <天地人>。
 
           てん-ち-じん 
           【天地人】
           ①天と地と人。 宇宙の万物。 三才。
           ➁三つに区分して、その順位・区別を表す語。
           ➂  〔割愛〕
 
           三才は、
 
           さん-さい
           【三才】
           ①(「才」は働き) 天と地と人。 三元。 三儀。 三極。
           ➁  〔割愛〕
           ➂  同上。
 
 
          聊か乱暴、’方向音痴’的な解釈かもしれませんが、
 
          天を、 機運。 気運;
          地を、環境 -- 具体的、実際的な; 
          人を、 対人関係性の当事者
 
          と捉え、順次、恣意的な考察、解釈を試みましょう。
 
 
          何よりも先ず、天に注目:
 
          てん
          【天】
          ①地平線にかぎられ、はるかに高く遠く穹窿(きゅうりゅう)状を
            呈する視界。 そら。
          ➁地球をとりまく空間。
          ➂天地万物の主宰者。創物主。 帝。 神。 また、大自然の力。
          ➃自然に定まった運命的なもの。 うまれつき。
          ➄~⑧ 〔割愛〕
 
       
           語釈➃に注目しましょう: 「運命的なもの」。
 
           うん-めい
           【運命】
           人間の意志にかかわりなく、身の上めぐって来る吉凶禍福。
           それを齎す人間の力を超えた作用。人生は天の命(めい)
           によって支配されているという思想に基づく。 めぐりあわせ。
           転じて、将来のなりゆき。
 
 
            本節のテーマに沿って、分かり易い部分のみを掬いますと、それは、
 
            めぐりあわせ。
 
  
            めぐり-あわせ
            【巡り合わせ】
            自然にまわってくる運命。 まわりあわせ。
              「__が悪い」
 
 
           連想し得る関連語は、天運、天命、機運。
 
 
           てん-うん
           【天運】
           ①天体の運行。
           ➁自然のまわりあわせ。 天与の運命。 天命。
 
          てん-めい
           【天命】
              ①天の命令。 上帝の命令。
           ➁天によって定められた人の宿命。 天運。
           ➂  〔割愛〕 
 
 
           き-うん
           【機運】
           時のまわりあわせ。 おり。 時機。
             「__が熟する」
 
       
           色々な語釈のな冗長な列挙になってしまいました。
 
           此処では、難解な語釈からは離れ、
 
           ’天’は、天運。 「自然のまわりあわせ」、亦、 「時のまわりあわせ」、
 
           運命的な成行きと見ましょう。
 
           ’地’は、対人関係性の当事者を取り巻く環境。状況。 外的な、
 
           客観的な時空間。
 
           ’人’は、 当事者自身。 自身の、特に、内的、主観的過程。 意識。
 
                 
                    今まで、
 
          ’地’/環境 と ’人’/当事者の相互作用、相互影響について
 
          考察・検討して参りましたが、 ‹間合›・タイミングの構成には、
 
           
          いま1つの要件、天、天運 --
 
          「自然のまわりあわせ」、 運命的な成行きが看過されてはならない、
 
          座視してはならないのではないでしょうか。
 
          ‹間合›・タイミングの発揮は、’地’ と ’人’ ばかりだけではなく、
 
           ’天’が加わり、天・地・人の3極に、或る程度の、’適当な’調和が生起
 
            した時、その時こそ、状況の判断が可能となると考えられます。
 
              例えば、
 
            人事を尽くして天命を待つ。
 
 
            じんじをつくしててんめいをまつ
            【人事を尽くして天命を待つ】
            人間として出来るかぎりのことをして、その上は天命に任せて
            心を労さない。
 
 
          ‹間合›・タイミングの構成には、’人’として、当事者として出来る限りの
 
          準備、構えをし、後は、天命、換言しますと、〔大〕自然のまわりあわせ、
 
          成行きに身をまかせ、行動を打って出る、切り出す機会を得る、と解釈
 
          してもよいのではないでしょうか。
 
 
 
 
                  Ⅵ  状況の判断
                           -- 続き
 
 
 
          いままで、‹間合›・タイミングの構成のために必要な要件をめっぐて
 
         考察・検討して参りましたが、
 
         本節では、‹間合›・タイミングの構成要件を、もう少しの深耕を試みる
 
         ことに致しましょう。
 
          改めて、構成要件を捉えかえしますと、それらは:
 
 
          ⋆ 状況の判断 -- 対人関係性の当事者が、その時、その場
 
           の状況を見極めること。 状況の把握と客観的観察、プラス
 
           冷静さ。
 
           ⋆ 当事者の個人的資質、傾性。 ‹間合›・タイミングには、
 
           その時機・時宜を選択する能力、打って出る決断力、実行力が
 
           要請されます。
 
          ⋆ 天運、気運、機運。 人知を超えた自然のまわりあわせ、
 
            そして、
 
          ⋆ 天運、気運、機運。
 
          これは、自然のまわりあわせ。成行きを知ること。
 
          自然の流れ、動きを見つつ、見計いつつ、’その時’を待ち、
 
          掴むこと。謂わば、’上昇気運・機運’を掴むこと。
 
          下降のものは、避けるべき。‹間合›・タイミングの機会を逸します。
 
 
             言うまでもなく、
 
             ‹間合›・タイミングの構成、状況の判断は、
 
            上掲3極〔/三才〕の働きが交錯し、調和、統合した時点、地点に
 
             おいて実現すると考えられます。
 
         
         ここから、上掲3要件をもう少し明確化することに致しましょう。
 
          先ずは、 状況の判断から。
 
          状況は:
 
          じょうきょう
           【状況】
          その場の、またはその時のありさま。 ある人を取りまく
          社会的・精神的・自然的なありかたのすべてをいう。
          様子。情勢。 「__が一変する」 「__を把握する}
 
   
          判断は:
 
          はんだん
          【判断】
          ①真偽・善悪・美醜などを考え定めること。 ある物事について
           自分の考えをこうだときめつけること。 また、その内容。
           判定。 断定。
          ➁うらない。
          ➂  〔割愛〕
 
 
          状況の判断に必要な(下位)要件、前節で触れました把握と観察の
 
          チャンスを図り、計ります。
 
          では、空気は:
 
            くう-き
            【空気】
            ① 〔割愛〕
            ➁ その場の気分。 雰囲気。
 
           此処での文脈関係でとらえますと、空気は、対人関係性という状況の
 
           その場で醸し出される雰囲気、状況の判断材料となります。 そして
 
            オーラも。
 
           オーラ
           【aura】
           人や物が発する霊気ないし独特な雰囲気。 アウラ。
 
 
           ’空気を読む’は、その場の対人関係性的状況、例えば、対話、会話の
 
          相手の(そして自身の)態度から放出されます。 相手の態度を知り、把握・
 
           観察し、当事者が、発言を切り出し、行動に打って出る‹間合›・
 
           タイミングを計る、図ることを含意すると言えるでしょう。
 
           たいど
           【態度】
          情況に対して自己の感情や意志を外形に表したもの。
          表情・身ぶり・言葉など。 〔以下割愛〕
 
 
           相手の態度を知るは、例えば、相手の顔色を見ることもその1つ。
 
          かおいろ
          【顔色】
          ①顔の色。  
          ➁感情を表している。 表情。 機嫌。
 
           かおいろをみる
           【顔色を見る】
           相手の表情を見て、その思いを推し測る。 顔色をうかがう。
           顔色を読む。
 
 
           '顔色を見る’は、日常生活世界では、屡々、否定的なニュアンスを帯び、
 
           マイナスの評価を受けています。けれども、対話、会話において、
 
            相手の非言語的な表情や身振り、つまり、態度を把握、観察し、‹間合›・
 
            タイミングを窺い、はかる(計る・図る)契機とすることは、決して無意味
 
            ではない、むしろ、有効な手法の1つでしょう。
 
 
            ‹間合›・タイミングの構成に必要な状況の判断の要件には、
 
            当事者の資質、傾性があります。
 
 
             ⋆ 当事者の知・情・意。
 
                    個人/私人的な意識過程。
 
           知は、知識(の蒐集)や知的活動。 つまり、外的環境について
 
           獲得した情報、整序、構築した知識体系を客観的な状況の
 
           判断資料にすること。
 
           情は、感情、情緒などの個人主観的なもの。
 
           ’情’的なものは、’知’的なものに彩りを与え、昇華させますが、
 
           同時に、要注意なのは、其処に、先入観、偏見、独断などが
 
           入り込み、適切、且つ公平な状況の判断を狂わせてしまう
 
           可能性が忍びこんでしることです。
 
           意は、 まさに、状況の判断力。 判断過程。
 
            それは、当事者の意志、意思、計画、企画/projectなどを、
 
           更に、行動の未来(目的)の可視化も含意し、選択と決断、
 
           意思決定も。
 
 
          ⋆ 当事者の選択、決断(力)、及び、実行・実践。
 
               
                     せん-たく 
           【選択】
           ①えらぶこと。 適当なものをえらびだすこと。 良いものをとり、
            悪いものをすてること。 「好きなものを__する」
                  「取捨__」
           ➁  〔割〕
 
           けつ-だん
           【決断】
           ①きっぱりときめること。 「__を下す」 「即坐に__する」
           ➁善悪、正邪の採決をすること。
 
          けつだん-りょく
          【決断力】
          判断に迷う場面で、一つに決められる能力。
 
           じっ-こう
           【実行】
           ①実際に行うこと。 「公約を__」
 
           じっ-せん
           【実践】
           ①実際に履行すること。 一般に人間が何かを行動によって
             実行すること。 「考えを __に移す」
               ➁  〔割愛〕
 
               
             ‹間合›・タイミングの構成のための状況の判断においては、
 
           選択は、躊躇うことなく、あれこれと迷うことなく、 選び兼ねることなく、
 
           きっぱりと決める決断力が大切。 ぐずぐずしていますと、折角の
 
           好機をふいにしてしまうます。逸します。
 
           ’ここぞ、’ ’この時’と決断、判断を下し、実際的な行動をとる、つまり、
 
           実行・実践することこそが、‹間合›・タイミングの構成の要となるのです
 
           から。              
 
          好機を掴むには、当事者は自然体、 無為、自然で。
      
       
            しぜんたい
            【自然体】
            ①ごく支援に素直に立った身体の構え。 特に柔道でいう。
            ➁特別につくろった緊張したりすることのないありのままの姿。
 
             むい
            【無為】
            ①自然のままで作為のないこと。 老子で、道のあり方をいう。
             ぶい。
            ➁  〔割愛〕
            ➂   同上
 
           好機を掴むと言うことは、自然な、無為な、ありのままの構えで行うこと。
   
           人為的に、つまり、無理に、強引に、正当な状況判断を捻じ曲げてでも、
  
           機会を捻出しようとすることでは、ない。 飽くまでも、何処までも、有の
 
           ままが良しとされます。
 
           構えとしては、その場の状況の動き、流れ、成り行きに添う態度。
 
           それは:
 
               天では、天運、機運、気運。
 
               地では、外的環境。 目下の状況。
 
               人では、直感、第六感、気-感覚。
 
 
         三者の塩梅が、構えを造り出します。
 
 
           あんばい
           【塩梅・按排・按配】
           ①塩と梅酢で調味すること。一般に、料理の味加減を整えること。
              また、その味加減。 「__を見る」
           ➁物事のほどあい。 かげん。 特に、身体の具合。
           ➂ほどよく並べたり、ほどよく処理したりすること。
               「材料をうまく__して話す」 「仕事の__を考える」
 
          
        ⋆  天の声。
 
           状況の判断には、時には、或いは、究極的には、
 
              ’天の声’に耳を傾けることが必要となります。
 
 
           てんのこえ
           【天の声】
           天の考えを人に告げる声。
 
 
           ’天の考え’は、既に指摘しましたように、対人関係性の状況では、
 
           自然のまわりあわせ、成り行き。 ’人に告げる声’は、予兆、前兆。
 
           聞き取る人は、状況の当事者であり、その力は、直感、第六感、
 
           そして気-感覚。
 
           
            よちょう
            【予兆】
            あらかじめ現れるきざし。 事のまえぶれ。
 
            ぜんちょう
            【ぜんちょう】
            事が起ころうとする前ぶれ。 まえじらせ。 きざし。
              「大地震の__」
 
 
          ‹間合›・タイミングの構成のため状況の判断をすることは、何よりも、
 
          ’その時’を知ること。 運命のまわり合わせには、何らかの予兆、前兆が。
 
          つまり、 ’その時’には、予めそれを知らせる兆し、予兆、前兆が現れ
 
          ます。この前触れを、抜かりなく、しっかりと掴むこと。
 
         掴むのは、当事者の直感、第六感、そして、気-感覚。
 
 
         ちょっかん
          【直感】
          説明や証明を経ないで、物事の真草を心でただちに感じ取る
          こと。 すぐさまの感じ。「__を働かす」 「__的に知る」
 
          だいろくかん
          【第六感】
          五感のほかにあるとされる感覚で、鋭く物事の本質をつかむ
          心のはたらき。
 
 
           通常の状況判断は、五感覚で十分なと想定されますが、けれども、
 
           ’天の声’に関しては、直感、第六感、更に、気-感覚で応えねばなない
 
           でしょう。 気-感覚による天ばかりでなく、地・人の把握も時には、
 
           必要となります。
 
           気-感覚を巡る考察・検討は、拙稿《気-感覚と息遣い》で
 
           試みましたので、此処では、敢えて省略致します。 ご了承下さい。
 
           因みに、
 
           状況の判断には、その基底に臨機応変さと柔軟さが認められます。
 
 
            りんきおうへん
              【臨機応変】
              機に臨み変に応じて適宜な手段を施すこと。 
               「__に対処する」
 
              じゅうなん
              【柔軟】
              やわらかなこと。 しなやかなこと。 「__に対処する」
 
 
 
         ⋆  ’その時’
 
           状況の判断を下すまさに’その時’の’判断’に、対人関係性の当事者は、
 
           迫られます。 何時が、’その時’ なのでしょうか。
 
 
           時は、
 
           とき
           【時】
           ①過去から現在へ、さらに未来へと連続して、とどまること
            なく過ぎゆく現象。 月日の移りゆき。 時間。 光陰。
           ➁~➃ 〔割愛〕
           ➄特定の時期。 
            ㋐その場合。そのおり。 当座。 「__と所をわきまえる」
            ㋑大切な時機。重大な時期。
                 「国家存亡の__」 「別れの__が来る」 「__に臨む」
            ㋒よい機会。 好機。「__が来るまで待と」う
            ㋓その場かぎり。 一時。臨時。 「__借り」
            ➅  〔割愛〕
            ➆ ㋐時勢。 世のありゆき。 「__の動き」
               ㋑時勢にあうこと。 栄える時分。盛りの時分。
                  「__にあう」 「__を得る」
            ⑧~⑩  〔割愛〕
 
        
            時の語釈㋒には、機会が挙げられています。
   
             ’その時’は、機会と解釈されてよいでしょう。
 
 
             きかい
             【機会】
             何かをするのに好都合な時機。 おり。 潮時。
             チャンス。 「絶好の__をのがす」。
 
            チャンスは、chance。 ジーニアス英和辞典に拠りますと、
 
             chance
                         ❶(特に好ましい)見込み、公算、可能性; 形勢。
             ❷(偶然の)機会、好機。
             ❸偶然;運(命);めぐり合わせ; 偶然の出来事。
             ❹~➐ 〔割愛〕
 
         
          ’その時’に絡む’時’は、大切な時機。 よい機会。
 
          機会は、好都合な時機、chanceは、好ましい見込み、機会、好機、
 
          運、めぐり合わせ。 
 
           いずれにせよ、 ‹間合›・タイミングを構成するための状況判断には      
 
           欠かせない材料と想定されます。
 
           更に、状況の判断には、既に触れましたように、‹間合›・タイミングの
 
           構成に必要な要件の1つ、待つことが挙げられます。
 
           待つは、 時、機会、時機を待つ。 待機。
 
 
            たい-き
            【待機】
            準備をととのえて機会のくるのをまつこと。
              「自宅__」
 
 
           待機には、 時機到来。 時期尚早。 機が熟す。 
 
           とうらい  
           【到来】
           ①こちらへやって来ること。 機運などの向いてくること。
                「時節_」_
           ➁  〔割愛〕
 
 
            じきしょうそう
            【時期尚早】
            それを行う時期にはまだなっていない。
  
            きがじゅくす
            【機が熟す】
            物事を始めるのに丁度よい時となる。
 
 
            時機、時期を、時として捉え直しますと、
 
            ときにあう
            【時に遭う】
            好時機にめぐりあう。 世に用いられて栄える。
  
            ときにあたる
            【時に当たる】
            その時にさしあたる。 時に臨む。
 
            ときをうる
            【時を得る】
            好時機にめぐりあって栄える。
 
            ときをうしなう
            【時を失う】
            ①好機を逃す。
            ➁時勢にあわず、勢力が衰える。 おちぶれる。
  
           ときをみる
           【時を見る】
           適当な時機が来るのを待つ。 好機をえらぶ。
               「時を見て反撃に出る」
 
 
           状況の判断においては、’その時’を知ることは、待つこと、待機すること。
 
           それは、その時に’さしあたる、’ ’臨む’から、’好機にめぐり合い、’ 選び、
 
           或いは、’逃す。’
  
           つまり、’適当な’時機が来るのを待つということ。
 
 
           では、好機、適当な時機とは、   
 
           適当は、適宜、適度に繋がります:
 
           
             てきとう
             【適当】
             ①ある状態や目的などに、ほどよくあてはまること。
               「__した人物」 「__な広さ」
             ➁その場に合わせて要領よくやること。いい加減。
               「__にあしらう」
 
             てきぎ
             【適宜】
             ①その場合・状況にぴったり合っていること。 適当。
               「__の処置」
             ➁便宜に従うこと。 随意。 「その辺のところは__でよい」
               「__休みをとる」
 
             さいてき
             【最適】
             最も適していること。
               「彼に__の役」 「行楽に__なシーズン」
 
             てきど
             【適度】
             ほどよいこと。 適当な程度。「_に_冷やす」 「__な運動
 
   
        対人関係性的場面の状況判断には、最適、適宜よりも、適当、
 
        適度のほうが、当事者双方にとって有効な時機、時宜、好機を招致
 
        するように考えられます。
 
         その内実は、’ほどよいこと。’ ’ほどほど’であること。
           
 
         それは、程よい、 程程。
 
             ほどよい
             【程好い】
             よい程度である。 ちょうど都合がよい。 「__・い湯かげん」
              「__・く煮える」
 
             ほどほど
             【程程】
             ① 〔割合〕
             ➁ ちょうどよい程度。 適度。 「__にしておく」
 
        
        当事者の一方にとって最適の選択・決定であっても、 他方には、
 
        最悪の場合ということもあり得ます。 双方にとって、'win-win'で
 
        あることが望まれる、望まれるべきでしょうから。
 
         対人関係性下の当事者による状況の判断は、やはり、適当、適度な、
 
        換言しますと、「程好い」、「程程(ほどほど)」の辺りーー時点、地点に
 
        落ち着くことが、 適当、適度でしょう。
 
          それこそが、状況判断、引いては対人関係性の維持・発展の
 
        奥義/こつではないでしょうか。
 
 
            こつ
            【骨】
            ① 〔割愛〕
            ➁芸道などを会得する才能。
            ➂骨法の略。 礼儀・故実などの作法。
            ➃(多く「こつ」また「コツ」と書く)物事をなす、かんどころ。
              要領。急所。呼吸。こつあい。 「__を呑み込む」
 
 
 
 
         ‹間合›もタイミングも、<間>と同様、踏み込めば、踏み込むほど、
 
        混沌・渾沌。迷路、迷宮へ迷い込んでしまうばかり。 
 
         このように極度に不明瞭な視界を、晴らして下さる方の出現を
 
        心からお待ちしております。 
 
        
                                団野薫 拝